新 お気楽日記

日常を徒然なるままに。

青い文学 人間失格 第三話世間

女性編集者の家に転がり込んで、所謂人間らしい平凡な暮らしを始めた主人公。子供にお父ちゃんと呼ばれることを拒絶することもなく、ご近所の好奇の目もそれなりに往なしながら、マンガを書いて僅かながらでも自分の手で収入を得ることができるように…。

てなことで、前回自分はお化けなのだという相当観念的な部分で押し進んだ話も、今回はわかりやすく。

冒頭、堺さんがナビゲーションする部分では「人間が苦手だ」という太宰の一面を取り上げていました。招かれた井伏鱒二の家の前で、なかなか家に入れなくてうろうろしていた太宰。後輩を招いたものの、どうしてよいのか分からず酒を煽り酔いつぶれてしまった太宰。
太宰は人間の何を恐れていたのか…と堺さんは結んでいたけれども、これって誰にでもある感覚なんじゃないだろうかーと、ちょっとお腹が痛くなります。
もちろんそれほど極端ではなくても、人見知りのようなものは誰でも多少なりともあるだろうし、人前で話すのが嫌だったり、自分の話をするのが嫌いだったりする人は結構普通にいるもので。自分にも思い当たる部分はあるわけです。やっぱり人と向き合ったり付き合ったりするのってシンドイものなんですよねえ。だからと言って、そうとばかりも言っていられないから、苦手だと言うことを自分に対して誤魔化しながら適当にやり過ごしていくわけなんだけど。
その適当にやり過ごす術を手に入れられないまま生きて行かなくてはならなくなっているのが、つまりはこの主人公。

金を稼げない者は人間失格だと言う父の言葉が未だに心にこびりついているようで、画家になるという夢を捻じ曲げてマンガを描いて、それがお金になるという現実に悪い気はしないものの、結局充足を得ることなどできないわけで。穏やかな幸せを手に入れたような顔をしつつも、寧ろ心は苦しくなっていっているのではないかと。
己自身である化け物が時折顔を出しそうになるのを、「出てくるな」と必死に抑えるのは、満ち足りてなどいない現実を「人間らしい生活」として、認めてしまおうとする別の意味での自傷行為にも見えます。

結局、心中で女性だけを殺したという現実はいつまでもつきまとい。それをネタにしたがる世間との折り合いが付けられず、苦しみは倍増しているようにも。
つかの間体験した疑似家族を離れ、酒びたりになり、バーのマダムと良い仲になってしまうあたり、この人がとことんモテル男だというのが寧ろ辛い現実です。そもそもモテない男だったら、とっくに特高につかまってるわけよね。本人にもそういう自覚はあるらしく「何故女の人は僕にやさしいんだ」と、吐露してます。こうして文字にしてみると「てめー何様だよっ!」という台詞ではありますが、このストーリーと堺さんの声ならアリだよなー(笑)。その答えはマダム曰く「世間が女にやさしくないから」なのだそう。
確かに女性は生きて行くことだけで精一杯。己の信念とか、やりたいこととか、なりたいものとか、そんな崇高なことを考えるより先に生きるためにどうするか?ということを考えるものらしい。元来男女の差なのか、時代によるものなのかわかんないけど。母性本能みたいなものなのかなあ…少なくとも、ここに出てくる女性は皆、そう幸せでもなく…というよりかなり不幸そう。真摯に生きる不器用な男に僅かな望みを見出しているのかもしれません…。

だんだん話の本筋が深くなってきて感想もめんどくさいもんになってきましたが(笑)、今回雪の中に大の字に倒れて天を仰ぎながら「僕が弱いから」「生まれてきてすみません」と、嗚咽を漏らすところは、なんだか胸がきゅうきゅうと痛くなってしまいました。
堺さんそのものはもっと陽の要素を持っている、良い意味で強かな大人だという印象を私は持っているんだけれども、なんだかこれ見てると堺さんが生きることに苦悩してるみたいに思えてきちゃってねえ(声だけなのに・笑)。真面目に観賞するのもしんどくなってきちゃいます。
そこまで思わせることが、寧ろすごい作品なんだなあと(原作・アニメともに)改めて思うんですが…。はてさて、来週はどうなんだろうか…。