新 お気楽日記

日常を徒然なるままに。

ゆれる

早速観に行ってきましたよ。最初に吼えておきますが、これが千葉で一箇所ってどーいうこと?しかもパンフ売り切れですよ。もう!頼むよ〜。がおー!
さて。始まって1分(いや2分かな?)で既に心はそちらの世界へ。それぐらい引き込む力が画面にある・・・と思う。なんか持っていかれましたね。いい映画だ。うん。
例の如くあらすじは省きます。
以下、ネタバレ豊富なぐだぐだ感想。


非常にぐっとくる作品でした。好みで言えばこれは相当お気に入りの部類。まず思うことが「ああ確かに女が作った映画だ」と。細かいところが非常に「女」。もちろん良い意味でですよ。
男が鬱陶しく思う女も、それでいていそういうところに引き摺られることも知っている。女って面倒な生き物なんだなあと、自分が女であることを前提にしておいて実感。顔で戸惑っておいて、でも関係を求めている。気まぐれだと知っているクセにそこにつけこむ手段を知っている。男の弱いところを知っていて、利用する。まるで邪気がないように装って。
ぶっちゃけてしまうなら、私はこのヒロイン智恵子(真木よう子)が嫌い。自分から動く努力をしていない。きっかけを待っている女は嫌い。でもこういう女は山ほどいるし、実は自分の中にもそういう部分はある。男の人が作った「智恵子」だったらもうちょっと可愛気があったかもしれない。男の人なら智恵子に救いを持たせたかも。でも脚本監督は女だった。故にそこに救いはない。
冷蔵庫には腐りかけの玉葱があって、包丁の音もたどたどしい。けど猛(オダギリジョー)の苦手な食材は知っている。遠い昔のそれを今もちゃんと覚えている。彼の写真集もちゃんと枕元に並べてある。一見慎ましい女に見せつつ、これは本当に怖い女。じゃないですか?男の人々。

実際、猛は出来心、遊びのつもりでもそうはいかなくなったのがコトの始まり。無論それに反応していないように見せかける兄稔(香川照之)だけれど、弟のことなどお見通し。多分彼女を車に乗せた瞬間から、わかっていたこと。車の運転をしない稔がそのテールランプをどんな気持ちで眺めていたか…。

はてさて。
いつになく行間を読みたくなるのは、この作品がそうさせているわけだからなんですが(笑)。これが西川監督の脚本というのは本当にオダギリの言葉を借りるなら「嫉妬」しますねえ。画面には断片的な事象と嘘しかないのに、その行間の量たるや。映画という媒体ならではの凄まじい見えない情報量。しかし無理しなくてもその行間という名前の真実がするする読めてくるから恐ろしい。なるほど「舌出せよ」とオダギリに言わせる監督だなと。嫉妬嫉妬(笑)。

オダギリはまたこれたまんない役どころですねえ。田舎出身だけど都会ですっかり垢抜けている。横文字職業(カメラマン)で独立しているという、一見誰もが憧れそうな人。ボロボロのフォードに乗っているのもめちゃめちゃかっこい。大体なんすか、あの髪型は。めちゃめちゃ私の好みじゃないですかっ!
じゃあすっごいすかした野郎なのかと言えば「兄ちゃん」と兄を呼ぶんですよ。「兄貴」とか言いそうじゃないですか。それが「兄ちゃん」。大事に育てられた次男だというのが端々に滲み出ている。本人はまったくそんなこと自覚ないですけどね。
得てして兄弟ってそういうもん。私は弟がいるんですけどね、男同士とはまた違うとは思うけれども、やっぱり幾つになっても弟は弟なんですよ。弟も込み入った話になるとイライラ来るくせに、結局いつも「お姉ちゃん」と…。うちの娘にまで「大人なのにいつまでお姉ちゃんって呼んでるの?」って言われる始末。でも兄弟ってそうなんだよねえ。
そのすかしていないオダギリ弟は、しかし都会ではちゃんとすかしたカメラマンをやっている。どっちが本当の姿なのか?ってのはまあ簡単にわかることですけれども、その二面性をすんなりきれいに両方見せてくれるので、ファンとしてはもう一粒で二度美味しいというやつです。

好みのポイントをあげるなら、智恵子の部屋での猛。そして後日彼女が亡くなった後、シャワーを浴びながらそれを思い出して嘔吐するハダカの背中(背中です!)。父親と弁護士である叔父との兄弟喧嘩に苛立ち仲裁に入る姿。彼のイライラ演技っていつ見ても好きだ。かっこよくないんですよ。イライラして手足をどうしていいものかとジタバタしている姿がね。傍聴席でひたすら無言の姿。傍聴席だから当たり前なんだけどセリフなしで、法廷の遣り取りを見ている姿がねえ。セリフが聞こえてきますよ、本当に。あとは拘置所の面会シーン。アクリル板越しのイライラ。伝わらない思い。これは兄から伝わってこない思いというのも大きいかなあ。
そして証人として法廷に立つオダギリ。このね、ここの声がすごいですよ。宣誓文を読み上げる声に震えましたね。マニアックかなあ。いや、オダギリ好きな人なら感じると思うんだけど。その後の証言も彼の感情のないような声に心が「ゆれ」ました。
7年後の少し角が取れたような姿にかえって胸が締め付けられて。激しい車通りのこちら側から叫ぶ姿に思わずちょびっと涙が(もう泣かない映画はないってくらいだよ)。何故彼は瞳を充血させるのだろう(笑)。あれがたまんないんですよねえ。ワーッと泣くんじゃなくて、見る見る間に目を充血させていくでしょう?唇がぽてっとなってきて、表情が崩れていくその段階がたまんないんですよ。やっぱりマニアック?いや、オダギリファンなら(笑)。

逆に表情をあまり変えずに淡々としている香川さんの姿が印象的でねえ。ああやっぱりお兄ちゃんなんだなあと。役である稔自身の「素」なのか「演技」なのか。弟にも気付かせないのがお兄ちゃんなんだよ。

ああ久々に何度でも観たい映画でした。こういう感想書くと重そうな映画に見えるけど、実際テーマは重いんだけど、その意味ではそんなに重くないのがまたすごいところで(意味わかんないですね、すみません)。そこに更に好感持ちましたね。この私がジンワリ泣きで済みましたから(笑)。