新 お気楽日記

日常を徒然なるままに。

過去のことです

やたらと長くて、人によっては結構鬱陶しい身の上話だと思いますので、ご注意くださいませ。
空中ブランコを見て眠った晩、見た夢。それは昔の職場。都内にある、まあ名の知れた出版社で編集スタッフだった頃のこと。ちょっと意地悪なお局様も、マスコミかぶれのカッコつけな同僚も、お調子者な先輩も、あんまり頼れない編集長も居ましたが、その中に私が忘れようにも忘れられない奴が混ざってました。そいつとのことが「空中ブランコ」に無縁ではない話でして。多分それで見た夢なんだと思う。
そいつは私より5つくらい年上の男。年が上なので先輩風を吹かすのはまあ良いとして、でも配属になったのはほぼ同時だったから、妙に態度が偉そうなのはそいつの性格かなと思ってた。お弁当の買出しを命じられたりとかね。で、いつの頃からだかわからないけど、なぜかそいつが嫌がらせをしてくるようになった。例えば具合が悪くて遅刻をすると「具合が悪いのは自己管理ができていないからだ」と怒鳴られる。いや、でも本当に具合悪いことなんて誰でもあるじゃない?と思うのだけどダメ。もちろん仕事に穴はあけていないし、連絡もちゃんと入れているのに怒鳴られる。ある日会社に行くと机の上に転職情報誌が置いてある。赤いマジックで「やる気がないならさっさと辞めろ!」という殴り書き。その時はさすがにわざわざお金出して雑誌を買ってくるなんて手の込んだ・・・と思いつつ、腹がたったのでそれを持っていって思いっきり振りかぶってそいつに投げつけてやったけど。
でもそういう対抗手段を持ち始めると、今度は陰湿なのが増えてくる。タイムカードを折り曲げられる。校正紙をまわすと間違っていないところにまで鉛筆でぐりぐり書き込みまくる。それが尋常じゃない量で、すべてのページに書き込んであったり。実際間違っていないから、それを全部消すのにものすごい労力がかかる。
エスカレートしていくとちょと暴力っぽくなる。机の前に貼ってある書類を破られる。配布物を投げつけられる。意味なく私のゴミ箱を蹴飛ばす。などなど。今思えばくだらないことばかりなのだけど、それが毎日15時間くらい会社にいるのでその間ずっと続くわけです。もう、相手が悪いとか、自分が悪いとかそういう次元を超えている。あんまりヒドイので文句を言いに行くと、「ちょっと来い」となぜか使ってない会議室に連れ込まれそうになる。正直怖かった。何が原因とか、何がしたいとかじゃなくて、とにかく怖かった。
仕事に支障があると上司に言っても「まあそれは個人的な問題だからねえ」と取り合わない。同僚は「気にしなければいいんだよ」と言う。目には目を、歯には歯をじゃないけど、自分は今にも何かやり返してしまいそうな衝動に駆られる。そんなことしても意味がないことはわかっているのだけど、でもタイムカードを折り曲げかえしてやりたくなる。同僚には「それじゃ同じ次元に落ちてるってことじゃん。同類だよ」と言われる。ホント自分を抑えるのに物凄い葛藤があった。
そんな折、ある事実が発覚しました。そいつはなぜかぶち切れて私の何が気に入らないかを言ったんだけど、それがまた凄くて。「お前が○○さんと仲良くしているのが気に入らない。あの人はあくが強くて嫌な奴だ。俺の仲の良い人を貶した」と。もうわけがわからない。何?何が言いたい?私の交友関係に口出しをする権利がお前にあるのか?と。もちろん私は反論したわけだけど、それに対しては「俺がお前にいろいろ言うのは可愛さ余って憎さ百倍なんだよ」と。「お前はそんな女じゃないだろう」と。どうやら、そいつが最初に思った私の人物像と、実際の私が違っていたのが気に入らなかったらしい。しとやかな女だと勝手に思い込んでおいて、私の勝気な性格が許せなかったということらしい。
これ、平たく言えばストーカー紛いなわけで。いくら個人的な問題とは言え、これを職場で毎日毎日やられたらこちらも精神的に疲労困憊。ついでに仕事も忙しくて徹夜続きだったりすると物凄い悲観的になっていく。そんな自分をどうやってコントロールすればいいのか、もう見えなくなっていく。今思っても、これまでの人生の中で完全に自分を見失ったのはこれ1度。怖かったです。都内で一人暮らしだったから、夜中に一人で家に帰るのとかにも怯えてた。
ある時「お前が俺ん家で、俺の座布団を抱えていたあの姿が忘れられない」って言われたときは愕然としました。遠い記憶を手繰れば、確かに編集部の人たち10人くらいでそいつん家でクリスマスパーティーかなんかをやったことがあったんです。半強制状態だったので、確かに行ったけど、その時の私の一挙手一投足を思い出して語るわけで、このままでは殺されるかもと本気で思いました。
で何が辛かったって、それぐらい怖いと誰に訴えても、皆「気にしすぎ」とか「個人の問題」とか「あんたって変な男に好かれるタイプ」とか、そんな感じ。二人だけ話をちゃんと聞いてくれる人が居て、一人は年上だけど私より後から入ってきた女性。彼女は「毅然として、然るべきところに訴え出るよ」って言いなさい、と言ってくれました。その時はちゃんと証言したり、手伝ってあげるからって。もう一人は今の夫。仕事に支障がある以上、上司が知らん顔するのはおかしいと、当時の上司に直接伝えてくれた。傍から見ても行きすぎだと・・・。結果上司も無視しきれず「今すぐ何かはできないけれど、困ったことがあれば言いに来なさい」と。もう、それだけで涙が出ました。確かにこの程度のことでは、昨日と今日とでは何も違っていない。だけど私の恐怖心や辛さを知ってくれている人が居る、と言うだけで不思議なくらい楽になった。こんなことで怖いと言っている私がおかしいのだろうか?私が根性なしなだけなのか?って、結局ずっとそればかり考えていたから。
今思えば、そいつの存在も怖かったけど、自分の感じていることや思っていることが「おかしいこと」なのではないかと、自分自身を疑い出したのが一番辛かった。そいつのやっていることが普通のことで、私が過剰に騒いでいるだけなのか?と。つまり被害妄想に囚われているのではないかと、自分を疑った。
最終的に「会社を辞めようと思う」と告白したときに、仲の良い同僚は「それじゃそいつに負けたことになるよ」と言ったけど、もうそんなことはどうでもよかった。勝ち負けなんかじゃなくて、楽になりたかった。何十人もいる職場で、「あなたが恐怖を感じたことは間違ってないよ」と言ってくれたのはたったの二人だったけど、そういう人が居るだけで、逆にもう辞めてもいいと思った。そいつに仕返ししようという思いも消えたし。
ただそれを理由に辞めると言うと、また皆に言いたいこと言われるのは明白だったので、それ以上疲れたくなかった私は別の理由をみつけました。結婚退職。皆本当の理由になんて気づきませんでしたね。ただ「結婚したって仕事はできるじゃん」と訝しがる人は何人かいましたけど。今思えば、確かに結婚退職なんて私の頭の中にはない選択肢でしたね。何事もなければ退職しなかったと思うし、いや、もしかしたら結婚そのものもしなかったかもしれない。ま、転んでもただでは起きなかったってことにしてますけど。
随分長く書きましたが、でもこれっぽっちの文章で表されたこれは数年間に渡って起きた出来事。その間明らかに自分を見失っていた私。今だから素直に言えるけど、本当に辛かった。冒頭の「空中ブランコ」に戻りますが、そういうのをあんなふうに否定しないで受け入れてくれる人がいたら、それだけで立ち直れたりしそうだな〜と思ったわけで。もし私の感覚が間違っていたものだったとしても、それでも否定しないでくれる人が居たら、それだけで自分を顧みることができたりしそうだし。
決して忘れはしないけど、でも記憶の隅に追いやっているので、普段は思い出すことはない。あのドラマを見た晩になぜかそいつが夢に出てきやがったので、ついついこんな昔話をしてしまいました。
つい2〜3年前、そいつが会社を解雇されたという話を聞いて正直なところ「ざまあみろ」とは思わず「遅すぎるよ」と思った私。後悔はしていないけれど、もしも違った対応ができていたら違った道があったかもしれないと、そう思ったりはします。