新 お気楽日記

日常を徒然なるままに。

森さん

森光子さんの訃報から2日ほど。テレビをつけるとワイドショーでもニュースでも大きく報じられていて、いろんなエピソードが紹介されています。
で、ふと、私の古い古い記憶が掘り起こされました。
かれこれ20年以上前、私が学生だったころ。都内のとある多目的ホールでアルバイトをしておりました。チケットのもぎりだとか、クロークでの荷物預かりだとか、席の案内だとか、そういうことをすべて行うのが仕事で、普通のコンサートだとイベント会社さんがそういう人員を派遣してくるものだけど、そこのホールはテレビの収録や公開放送、なんらかの表彰式からクラッシックコンサートまで、いろいろなイベントが行われる所なので、ホールそのものが接客要員のアルバイトを雇っていたんですね。そこではマニュアル的な接客だけじゃなくて、立ち居振る舞いだとか言葉遣いだとか、結構厳しく教えてもらった記憶があります。疲れて立ち方が汚くなる頃、先輩が回ってきてねえ…すごい怒られたりして(涙)。もちろん芸能人と呼ばれる方々を近くで目撃できるという、年頃の娘には浮かれ要素もたっぷりの職場だったんですが、それだけに何もかもが厳しかった〜。
ま、そんなわけで高校出たばかりの私にとっては、厳しい社会というものを学ぶすごく良い機会でした。
で、ある日「あなたの持ち場はここ。立っててね」と割り振られた場所は、ホール客席から楽屋口へ行く通路。つまりパスを持たない不審者を絶対入れないように!という、それなりに重要な場所。そんな場所私に任せて大丈夫なんかい?と思いつつ一人キンチョーして立ってたら、何か審査員のような立場の方々が楽屋口から客席入り口へと逆に出てきたのです。
それはいろいろな分野の著名な方々。その中に森光子さんがいらしたんですよー。
で、何故か私はとっさに頭を下げて蚊の鳴くような声で「お疲れ様です」と言ったのでした。今思えば、警備的な役割なのだから挨拶なんてする必要なかったんだと思うんだけど…そこはなにぶんド素人に産毛が生えたくらいのアルバイト初心者。失礼があってはいけないと、あわあわしながらその列に向かって頭を下げたような気がします。そしたら7〜8人はいた列の中で森さんだけが振り返って、「ご苦労様ですね」と丁寧に頭を下げてくださったのでした。
その横にいた有名な女流作家さんが、あからさまに「あんた何?」っというような表情で私を一瞥したのもすごくよく覚えておりますが(笑)、森さんの優しい表情は今でも忘れません。その日、私は帰宅して母に興奮気味にそのことを報告していたらしく、昨日母もテレビを見ながら「本当に優しい人だったのね。あなたも挨拶していただいたことあったわよね?」と…。なんと母まで覚えてたー!
そこのアルバイトでそこまで心がホッコリしたのはそれが最初で最後。
いや、「あなたたちはどういったお仕事をされている方なんですかー?」と、デパートのコンシェルジュみたいな制服に興味深々で、自ら話しかけてきてくださったサンプラザ中野さんも印象的だったけどね(笑)。
って、話逸れたー。もとい。


随分古い話だけども、その頃森さんはすでに70才近かったはずだし、既に大御所女優さん。テレビの追悼コーナーなどを見ていると不遇の時代もあったとのこと。月並みだけれども苦労された方というのはやはり「相手を思いやる心」が違うのかなあ〜なんてことを思いました。それに挨拶一言でこんなに人を温かい気持ちにできるって、すごいこと。今となってはわからないけど、きっと言葉に心がこもっていたんだと思います…。なんとなく挨拶し返したんじゃなくて、ちゃんと私に向かって挨拶してくれていたのだろうと思います。本当に労いの言葉だったのだと思います。
芸能人が挨拶返してくれたから嬉しかったのじゃなくて、不安な気持ちでそこに立ち、慌ててわけもわからず頭を下げた私の存在をきちんと認識してくれたから嬉しかったのだと思います。

なんてことないたった一言の古いエピソードなんだけれども、不思議と心に残っている話だったので書いてみました。おこがましいけれども、そういう人になれるように頑張ろう…と、訃報を聞いて思いました。
森さんのご冥福をお祈りします。