新 お気楽日記

日常を徒然なるままに。

青い文学 人間失格 第四話新世界

人間失格最終話になってようやく「うわ〜堺さんだ〜」と思える声が(遅)。
時は流れていつの間にか葉蔵はタバコ屋の店番をする美子と結婚。昔の友達掘木に「何度目だ」と突っ込まれつつもどうやら「世間」で言うところのマトモで幸せな暮らしをしていたらしいです。
この堀木との他愛もない会話の数々が堺さん!っていう感じ。今までの苦しみ悩み迷い感情を押し殺したような声のトーンから一変「陽」を感じさせる感じに…。その途端堺さんの姿が浮かんじゃった。そうかーやっぱり普段の堺さんは「陽」の人なんだなあ〜と、ヘンなところで納得してしまいました。

葉蔵の過去も「信じない〜」という明るい美子さん。しかーし、その美子さんを口説いた言葉がもうねえ…「そりゃーあんたもてるわ♪」という(笑)。酔っ払ってタバコ屋の店先に立ち、いきなり「きみは処女?」って(←堺さんの口からこんな言葉…とか思うと盛り上がる・笑)。もちろん彼女は顔を真っ赤にして「失礼ねっ」と彼のほっぺたをひっぱたくわけですがまったく動じずさらに詰め寄り、「酒やめるよ、きみが結婚してくれたら」…って。茫然とする彼女に、今にも死にそうな顔で「俺を助けて…」。ああ今、彼女が恋に落ちた音が聞こえました(笑)。
所謂世の中の「ダメな人ほど見捨てられない」という、自ら不幸に突入しがちな女性の気持ちが、この人間失格を観ているとわかる気がしてきます。原作を読むと、イライライライラ…っとなりがちな部分が、端正なお顔のキャラと、堺さん効果で「ん〜〜!不幸になるとわかっていても放っておけなくなるわね!」と(笑)。
アニメ化大成功なり(違)。
そんな赤裸々なことを友達に喋りながら「あいつは俺のマリア様だ」とこっちが恥ずかしくなるようなことをサラリと喋っちゃったりする葉蔵。
とまあ、そんなこんなで自分の過去を切り売りしてでも売れるマンガを描くと決意し、自分の力と稼ぎで彼女を幸せにしていると思えるようになってきた葉蔵。映画を観に行ったり、銀座に食事に出かけたりすることを「幸せ」と言うのだと思えるようになってきたのか、思いこもうとしているのか。平凡すぎることを自慢げにペラペラと明るく喋り続ける様子に、違和感を感じているのは堀木だけでなく私も同じ。そんなもの一時のことじゃないのか?これが本当に葉蔵なのか?と。本人は「売れるものを」としてマンガを描き、認められたところでそろそろ描きたいものを描こうと方向転換を試み、それが世間受けしないものであっても食べていけるくらいの稼ぎにはなっていると…。上手く世間と折り合いをつけて、世渡り上手になったつもりでいるのでした。
締切日でもないのにやってきた編集者を階下に待たせ、酒を飲み、友人と喋りながら描くマンガ…幸せボケと言ったら語弊はありありなのだけれども、どうやら平凡な幸せというのは人を愚かにしてしまう側面があるようで。
以前そんなふうにしてヘラヘラとマンガを描いていた筈の堀木は、葉蔵の父の死を知らせに来てくれていて、人の道としては線香の一本もあげにいくものだろう?という話をしにきていたんですねえ。父親の話になると取り乱すあたりを観ると、やはり今の葉蔵の明るさや強さなんていうものは無理矢理作りだしているものなのだと思わざるを得ないもので。「人の道」などとっくに外していると狂ったように笑う声などは堺さんの真骨頂なんじゃ…と。
そんな折、階下で起きていたのは妻である美子と編集者の情事。それを目撃してしまった葉蔵はうろたえて2階へ逃げる…「なんで助けてくれなかったの?」という美子。そりゃーそうだよな…。しかし葉蔵はこの一件で、自分なんかのマンガが売れるはずもなく、それなのに仕事があったのにはこういうからくりがあったのかと。僅かながらに残っていた自尊心はメタメタになったようです。ここら辺のもう出口のないうろたえぶりもまた堺さんらしく…。いやあこの人声だけでこれだけ表現できる人なんですねえ(とか思わないと、話が重たくてやってられない)。
まあ女心としてみれば「何しやがるんだこのやろう!」と編集者をはったおしてくれれば、それきり仕事なんかなくなったって二人幸せに暮らせるわ…ということだったのでしょうけれども。なんというか…ピュア過ぎるんですね、きっと。

結局、彼女の自殺は阻止し、自らは死を選ぶという。始まりとはまったく逆の終わりを選ぶわけなのだけど。これで結局彼は楽になれたのかと考えると答えは出ず。けれども一方で彼の求めていた生き方って一体なんだったんだろう?とも思ったりします。生まれながらの環境が彼をこうさせたのだとしても、そんなこと言ってたら人は生きていけないじゃん!と。このあたりは多分原作を読んだときの感覚と同じなんじゃないかなあ。甘ったれてねえで泥水啜ってでも生きてみろ!などとも思いますが。そこらへんは堀木が代弁しているんですね。「そんなあまちゃんはこれからは生きていけない」と。こういう男が多いから女が強くならざるを得ないんだよ!なんてこともチラと思ったりもするし、でも男ってそんなもんだよねーとも思ったり。まったく…青い名作でした(激しく納得)。いや、うんと素直に「ダメ男の女遍歴」を赤裸々につづった、昼メロ風の恋愛ストーリーだと思えば腑に落ちるのかも。でもそうならないところが本当に「名作」なんだろうな…と。

弱さとピュアさは紙一重なのか…。「葉ちゃんは神様みたいないい子でした」という結びをどう受け止めるのか。やっぱり名作でした。